藤棚 022

窓を開けると初めてここへ来た日のような、生あたたかな風が吹き込んできた。低気圧が近づいて東南の湿った風がこれから吹き荒れるらしい。雲は低く垂れ込め、庭の木々は色濃く生い茂り水を含んだように重く垂れている。
 池の石の先端に玲の立っている姿が見えた。手元に抱えた腕に手を突っ込むと勢いよく餌を撒いた。池の鯉が跳ねる。餌を撒く。また鯉が跳ねる。撒く。跳ねる。俺は頬杖をつきその姿を見つめながら昨夜のことを思い出していた。