藤棚 021

「玲、どうする。この先に進む?それとも。」
選択肢を彼女に委ねるのは卑怯だろう。けれど俺はかろうじて冷静さを失わずにいる頭の隅で考えてる。これは愛じゃない。欲望に近い。でもそれ以上に彼女の望むセックスだ。癒しと医療を混ぜて濁流から引き上げる作業だ。俺が流される前に決めなきゃならない。
「本当は実の兄貴とこうしたかったんだよな。」
責めてどうするんだ。理性ではわかってる。でも言わずにはいられない。
「どうしたい?初めてだよな。このまま俺と寝る?俺はお前が望むようにしてやれる。目を閉じて、ああ、俺の顔はお前の兄貴とそっくりだったんだな。じゃあ俺を見てろ。ずっと。」
違う。と否定する前に口を塞ぐ。身体全体で拒否する彼女を押さえ込む。
「玲、俺は」
先にも言ったとおり、こんなことがしたいわけじゃないんだ。泣く彼女を下に俺は最後の境界線の瀬戸際でため息と共に台詞を吐いた。
「俺がお前にしてやれることはこのくらいだよ。お前がこの先どうなるのか俺にはわからない。けれど、お前が望むならいつでも駆けつける。そしてお前の兄貴のつけた傷口を塞いでやる。これから先も、望むのなら。」
「兄さんは私を傷つけたりなんかしていない。」
そうだな。と言って俺は深い海の底の色をした、ナイフの突き刺さったままだという彼女の胸に顔を埋めた。