藤棚 017

「ガムってなに?私と兄さんとの思い出が噛み散らかしたガムってってなに?」
「例えばだよ。ガムじゃなくたって別に--------」
「訂正して。今すぐ訂正して。訂正できないならもっと良い例えにして。本当にあんたって馬鹿よね。その顔がムカつく。腹ただしい。あんたその顔で生きてるならもっと-----------」
と言いつつ俺のシャツをがっしりと掴んで激しく揺さぶりながら玲は俺を罵りたおした。
「その顔で生きてるなら自覚して。下品な言葉使わないで。賢くなって。その笑顔やめて。もっと兄さんらしくして。私の兄さんはそんな例え話しない。私のためにもっとやさしい言葉を使ってくれる。慰めてくれる。笑わせてくれる。あんたみたいな頭のネジ一本抜けたみたいなマヌケなツラでハッピーチューインガムなんて言わない。」
 言わないっていったって俺はお前の兄貴じゃないんだから仕方ないだろうと反論する暇も絶えず女は俺を畳み掛けるように罵り倒していった。瞳はさきのガラス玉に火が灯ったように煌めき肌にかかる髪は青白い肌の上を左右にゆれた。彼女は怒っている。ひどく腹を立てている。しかし何に?半ばソファに倒れかかった俺は今朝方から今に至るまでの彼女の動向、仕草、動き、言葉を反芻する。その頬にかかる髪に触れてみたいと無意識に念じながら。