藤棚 024

「お前の兄貴はどこで死んだんだ?」
口から飛び出た台詞がなぜか俺を戸惑わせた。けれど止めることはなぜかできなかった。
「どこって、パリのアパルトマン。多分3区。窓から川が見えた。その部屋。」
「どうやって死んだんだ?」
「詳しく知らない。」
「知らないわけないだろう。親に聞いてるだろうお前。しつこく、何度も。」
 繰り返し。こいつが兄の死んだ状況を尋ねないわけがない。聞いて再現する。頭の中で。目の前でその惨劇が行われているかのごとく。
 玲は子供が歯を食いしばるような表情で俺を見返した。
「薬を、少しづつ、水に溶かして、飲んだの。時間をかけて。一度に飲むと、寝てしまうから。多分、二時間ぐらい。テーブルには、空になってコップが十個。水の入ったままのコップが綺麗に同じ数だけ、並んで、中には、睡眠導入剤が、入ってた。兄は、それを飲みながら、映画を観ていた。道 っていう白黒の、つまらない映画。なぜあれを選んだのか、わからない。変な映画。」
そこまで言うと玲は深くため息をついた。
「私、同じことをしてみた。馬鹿みたいでしょ。もちろん、死ぬ気持ちにはならなかったし、大体、そこへ行き着く間の出来事の方が、重要なのに、でも私は最後しか知らないから。」