2023-11-01から1ヶ月間の記事一覧

藤棚 006

玲 3 「ほんと---------------なんでそんなヤツが自殺したんだろうな。」独り言のように、考えてもらちのあかない疑問を弾くように言葉にしたとき、嵐がドアを引き剥がすような大音量が鳴り響いた。振り向くと勝手口に玲が立っていた。暴音はヤツがドアを勢…

藤棚 005

玲 2 夕食に呼びに来たのはお手伝いさんだった。俺をこの部屋に通したのもこのおばさんだ。誰が俺にこの部屋を使うよう聞きたかったがやめた。可能な限り関わらないほうが良いと直感のサイレンが頭上に鳴り響いていた。最後の晩餐だ、多分。俺は仕方なく階段…

藤棚 004

玲 25mのプールほどの大きさのある池を大きく迂回して雨風の中やっと縁側へたどり着いたとき、女が、白い靴下を履いた女が立っていた。白い靴下が目に入ったのはただ目線がそこにあったに過ぎない。だから玲という俺の第一印象は学校指定の白い靴下になった…

藤棚 003

風 3 (その曲知っているわ。セイさんがよくひいていたじゃないの、私好きだったのよ。)そういえばそうねともうひとりが相槌を打った。セイさんというのは誰か俺は問うた。二人は顔を見合わせ、一呼吸おき、貴方の先日亡くなった従兄弟だと言った。母の兄の…

藤棚 002

風 2 藤棚の藤は満開であった。満開の花下で俺の叔母たちは隣り合い身を寄せ合いほほえみつつ俺を待ち受けていた。 (なにか、ごようですか。) 我ながら妙な挨拶だとは思うが滅多に会わぬ二人に何を話せばいいのかわからない。 (なにってことは、ないのだ…

藤棚 001

1 風 その日は身体にまとわりつく湿った風が吹き荒れていた。窓を開けると風は勢いよくなだれ込んで部屋中をかき乱した。俺は急いでベッドから起き上がると机上の紙や書籍をつかみ、飛ばされる前に引き出しへ放り込んだ。ニュースではすでに南方は梅雨に入っ…