2024-04-01から1ヶ月間の記事一覧

藤棚 024

「お前の兄貴はどこで死んだんだ?」口から飛び出た台詞がなぜか俺を戸惑わせた。けれど止めることはなぜかできなかった。「どこって、パリのアパルトマン。多分3区。窓から川が見えた。その部屋。」「どうやって死んだんだ?」「詳しく知らない。」「知らな…

藤棚 023

押して引いた欲望と躊躇と哀れみの隙をぬって魚のように彼女は俺の両腕から逃れると片方の手のひらで俺の顔を塞いだ。「それは正しいことじゃない。」固さを含んだ声だった。「それは正しいことじゃない。今はその時じゃない。私は、こんなふうに人と寝たく…

藤棚 022

窓を開けると初めてここへ来た日のような、生あたたかな風が吹き込んできた。低気圧が近づいて東南の湿った風がこれから吹き荒れるらしい。雲は低く垂れ込め、庭の木々は色濃く生い茂り水を含んだように重く垂れている。 池の石の先端に玲の立っている姿が見…

藤棚 021

「玲、どうする。この先に進む?それとも。」選択肢を彼女に委ねるのは卑怯だろう。けれど俺はかろうじて冷静さを失わずにいる頭の隅で考えてる。これは愛じゃない。欲望に近い。でもそれ以上に彼女の望むセックスだ。癒しと医療を混ぜて濁流から引き上げる…

藤棚 020

波の音がする。寄せては返す波の音に耳を澄ませる。夏の太陽の燦々と照りつける砂の上で、目を閉じている。親戚の集い、従姉妹に、見知らぬ子がいた。不思議そうな顔で俺をじっと見つめていた。 瞼をかすかに開ける。その子の足がこっちに向かって勢いよく走…

藤棚 019

玲の頬が色づいた。目と瞳孔がわずかに大きくなった。俺は彼女の火照った頬を両手で包み込んで唇を重ねた。もうそれ以上死人の話をするなとでもいうかのように。全部終わったんだ。終わった話を繰り返したってどうにもならないだろう。舌先が彼女を求める。…

藤棚 018

「---------------ああ、わかったよ。例えばそうだな。草原に寝転んだ夢見る骸骨みたいな。何処かでそんな絵画を俺はみたことがあるよ。いいな。実に。お前と兄貴の関係の終着点ってやつ。俺が決めていいならそうする。何ならそれと踊ったっていい。悪魔のト…