■008

「クラヴィス、おまえはまだその女に想いを寄せているか。」「ああ。俺の誠意を踏みにじってさえまだ恋心は消えぬ。」「なにゆえに彼女がその品を受け取らずにおいたのかは分からぬ。当代きっての高級娼婦のあのオリンピアだ。俺たちの想像もつかぬ理由があ…

■007

はしばみ色の瞳に白い花の編み込まれた黄金の髪を眺めるばかりだった俺はそのうちひとことふたことと言葉を交わすようになり彼女の知人の一人となった。そして先日俺は彼女の邸宅へ一反の絹を贈った。舶来品の彼女の身につけるに相応しい品物だ。城に住む商…

■006

再び石椅子に腰掛け、俺はだらりと頭を垂れた。昨夜の酒がまだ身体に残っているかのような気分の悪さだった。親友に愚痴を言って何になる。「クラヴィス、おまえ、さてはオランピアに振られたな。」 俺は今どんな表情をしているのだろう。質の悪い汗が背中を…

■005

青白い物憂げな表情をいっそう暗くさせてラーウスは言った。ドアの隙間に挟んであった手紙はお前の小姓が寄越したものだったのか。味も色気もないその手紙を俺は酔いつぶれた身体で読み返し脱いだ服と共に床に放り投げたのを思い出した。 「そうか、それは手…

■004

「そのような子供のお遊びを王はこのまん。眉間の皺が増えるだけだ。以前の術を超える華やかで美しい術を持ち合わせてはいないのか。」 剣術堂へと至る回廊で立ち止まり、俺は石椅子に腰掛けた。 「ラーウスよ。俺が飽き性なのは知っているだろう。幼少のみ…

■003

「お前は、その、あれだ。以前王の前で妙技を披露したろう。それが非常に王の歓心を買ってだな、今日のような暗雲垂れ込め今にも雷を落とす風体のお姿にその技を御覧いただきた多少なりとも健やかな心を取り戻してほしいのだ。」 俺は剣を磨きながら苦虫を潰…

■002

「王は今日はひどく機嫌が悪い。」 端正で神経質な顔の表情を歪めてウーラスは言った。王の機嫌の悪い日以外を俺は知らない。あの人はほぼいつも常時機嫌が悪く、笑うときといえばフラーウスが妙技を優雅に繰り出したときや、ルベルがしてやったり特技を披露…

■001

彼らが修行ででかけているのを知ったのは今朝であった。才色兼備で文武両道なフラーウス、天才肌で切れ者のルベル、美男子で気の優しいオランチアが城の外へ出かけたのを知ったのは。俺は寝床で誰かが部屋のドアをしきりに叩くのを半分夢の中で聞いていた。…