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「そのような子供のお遊びを王はこのまん。眉間の皺が増えるだけだ。以前の術を超える華やかで美しい術を持ち合わせてはいないのか。」

剣術堂へと至る回廊で立ち止まり、俺は石椅子に腰掛けた。

「ラーウスよ。俺が飽き性なのは知っているだろう。幼少のみぎりから机を並べて勉強に励んだ仲なのだからな。俺は勤勉とは言い難い子供だったが、好奇心だけは人一倍あった。だがそれは蝋燭が一瞬燃え立ちて消える程度のものだ。長くは続かん。今日のお前の希望に添えるような術など持ち合わせてはおらん。王の前で恥をかくならまだしも失態を演じ機嫌を損ねるのは避けたい。というか嫌だ。流石に首は飛ぶまいが、理不尽な罰則を受ける様子が目に浮かぶ。俺は今日は病欠ということで自室へもどることにする。」

踵を返し、来た道を戻ろうとするとラーウスはしかと俺の腕を掴み取った。

「それは許さぬ。お前は忘れているだろうが、今日は剣法第七法の模擬実演の日だ。よってわざわざ眠っているお前の部屋の戸を叩き呼びに行ってやったのであろう。王の直属の近衛兵の第一隊長であるこの私がだ。この実演を受けねばお前の前途は閉ざされたのも同然だ。全くなにゆえ前の晩にも使いをやったのにお前は部屋におらず、当日にそのような無様な姿で失態をなす羽目になったのか。俺は心底ため息しか出ぬ。しかも日頃の不摂生な行いで王の信頼も勝ち得ず一向に出世をせぬお前にこれとない好機を運んでやったというのに喜びもせず一蹴して部屋に戻るとは何事だ。俺はもうそろそろ竹馬の友を見限らねばならぬのかもしれぬな。」