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「お前は、その、あれだ。以前王の前で妙技を披露したろう。それが非常に王の歓心を買ってだな、今日のような暗雲垂れ込め今にも雷を落とす風体のお姿にその技を御覧いただきた多少なりとも健やかな心を取り戻してほしいのだ。」

俺は剣を磨きながら苦虫を潰したような表情を顔に貼り付けた。ラーウスの言うことはいつも回りくどく妙な比喩に飾られる。

要するに

「俺の邪道な剣術で王の心を慰めればいいのだな。」

「まあそういうことだ。ただ、王は同じ術を嫌う。真新しいまだ王の目にしたことのない興味深い術を披露して欲しい。」

前回はたしかこの剣を使って空中からパルサティスキノコのグラミティアソースを添えたディナーを華麗な婚礼儀式もさもあらんほどの装飾で100人ほどの食卓を顕現させたのだった。あのときは先祖伝来の術書を夢中になって読んでいたせいもあり、派手な術式も手軽にこなせていたが書籍は今現在ホコリをかぶって書架に眠っている。

「前以上の術となると難しいな。最近はとんと練習していない。せいぜい出せるとすれば各々の剣先にすみれの花を出すぐらいが関の山だが。」