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「王は今日はひどく機嫌が悪い。」

端正で神経質な顔の表情を歪めてウーラスは言った。王の機嫌の悪い日以外を俺は知らない。あの人はほぼいつも常時機嫌が悪く、笑うときといえばフラーウスが妙技を優雅に繰り出したときや、ルベルがしてやったり特技を披露したときや、オランチアが失敗をしてはにかむときぐらいだ。それも笑うというかは優しく微笑む程度だけれども、それ以外は無関心かまたはイライラとした表情をしている。王という立場上仕方ないのかもしれない。策略を弄する魑魅魍魎や悪鬼の跋扈するこの城で生きていくには王といえども気を張っていなければいつ寝首をかかれるかわかったものではない。王ゆえに注意を怠ってはならぬのだ。

フラームスはスヌトピアの海を超えて隣国へ、ルベルはタイガの山の向こうへ、オランチアはムーウサの谷へ向かった。王の寵愛深い三人がおらぬ今、日々の激務に忙しい王の心を慰める大役が居ない。」

「それと俺となんの関係がある?」

長らく手入れをしていない長剣を抜き、ポケットの底で小さくなった布切れともハンカチともつかぬ代物を取り出しサビを拭う。