■006

 

再び石椅子に腰掛け、俺はだらりと頭を垂れた。昨夜の酒がまだ身体に残っているかのような気分の悪さだった。親友に愚痴を言って何になる。
「クラヴィス、おまえ、さてはオランピアに振られたな。」

俺は今どんな表情をしているのだろう。質の悪い汗が背中を伝う。
「それ以上は言うな。おまえの言いたいことはわかっている。ラーウス、俺とオランピアとでは不釣り合いだと言うのだろう。それは重々承知の上だ。娼婦といえどもオランピアは俺にとっては高嶺の花だ。手の届く相手ではない。二人きりで酒を酌み交わすことさえ難しい。過ぎた相手を想うことほど苦労することはないな。だが想いをとどめておくことはそれ以上に苦しいのだ。俺が今アルトリアの橋の向こうの館でリラの手習いに通っているのは知っているな。そこの小間使いと主人に手習いの賃金の倍の額を払って俺はオランピアと会っている。会っているといっても一方的に想いを伝えるばかりなのだが。リラの習い日に約束の時間より早くに出向いてさも偶然を装い彼女に話しかける。そのきっかけを作るのが主人と小間使の役目だ。