■007

はしばみ色の瞳に白い花の編み込まれた黄金の髪を眺めるばかりだった俺はそのうちひとことふたことと言葉を交わすようになり彼女の知人の一人となった。そして先日俺は彼女の邸宅へ一反の絹を贈った。舶来品の彼女の身につけるに相応しい品物だ。城に住む商人や爵位持ちだとて手に入れるに苦労する逸品だ。不足は無い。女なら誰しも喜んでその日のうちに裁縫屋に駆け込むだろう。だか昨日起き抜けの俺の部屋にやってきた使いが持参していたのは感謝をしたためた手紙などではなく、俺の贈った絹そのものだった。年を経たやけに背の高い使者はお返しいたしますと慇懃にその品を俺に手渡した。一輪の花を添えて。なあラーウスよ、これは一体どういう意味なのだ。俺には彼女に贈り物を届ける価値もない男だということか?俺のような位のない出自も大したことはいない男から物を受け取るのは彼女の価値を下げるということか?」
大きなため息が出ると同時に俺の頭は前にも増して垂れた。
「それで昨日はウサを晴らしに酒場に入り浸っていたのか。」
「それのどこが悪い。俺はもう生きているのが嫌になったのだ。今更模擬だの剣術だの王の機嫌を取るための小手先の魔術などどうでもいい。試験に落ちたとてかまいはしない。」