私の香水遍歴1

誰かの香水遍歴を読むのが好きなので私も書いてみた。

その1

バラベルサイユ

ジャンデブレ バラベルサイユ EDT 100ml [並行輸入品]

  ベルサイユ宮殿の舞踏会(Bal a Versailles)と命名された香水はそのボトルの絵柄や瓶の形状から4歳の少女の興味を惹くのに充分だった。母の鏡台に飾られた瓶を手にして蓋を開け香りを嗅ぐ。琥珀色をしたそれは魔法の水であった。幻の世界へ連れて行ってくれるような特別な雰囲気を纏った小さな小瓶を大切なものだから、と取り上げられるまでそれは私の秘密の宝物でありつづけ、記憶はいまだ心に深く刻まれている。

 香水といえばまずこれを思い浮かべる。香りもザ・香水である。重厚、重鎮、重みのある、古典的な、典型的な、想像通りの、ザ・香水。現代風にサラリと纏うのは難しい、丁寧な扱いを要求する逸品。例えば手首にひっそりと自分との約束を交わすようになぞったり、白いハンカチにわずかにつけて密かに香りをたのしんだり、己のためだけに愛でるもの。

 

 ビューティフル

エスティローダー ESTEE LAUDER ビューティフル 30ml EDP SP fs [並行輸入品]

 成人したての頃、年上の従姉妹から贈られた。名前の通りの美女が真正面から正々堂々と勝負してくるような勢いのある香水である。当時はこの一本しか香水を持っておらず、出かける時は必ずつけるほどに気に入っていた。FIFA賞(香水のアカデミー賞的なもの)の殿堂入り。先日エスティのカウンターにて香りをきく機会があったのだが流石に今の時代にはそぐわない気がしないでもなかった。

 

ディオリッシモ

クリスチャンディオール ディオリッシモ オードトワレスプレー 50ml/1.7oz並行輸入品

 私はいくつかのものを除いてディオールの香水は苦手というか香りを堪能できない損な体質である。ディオリッシモはディオールが幼子のために特別に調合した鈴蘭の香りなのだがその逸話を聞くだけで心躍る。しかしいざ購入して身に付けても、いいのだか悪いのか香っているのかいないのかわからない。この現象は流行しているミスディオールシリーズにも当てはまる。音に例えるなら高音が長く鳴り続けたままの音楽ではない妙な香水だ。おそらく私の嗅覚と合致しないのだろう。非常に残念である。

 

タンドールプアゾン

クリスチャンディオール タンドゥルプワゾン EDT SP 50ml (並行輸入)

 優しい毒と名付けられたこれはあの恐るべき銘品プアゾンから派生した。漆黒と黄昏の合いの子のようなプアゾンの紫のボトルの香りを嗅いだら一生忘れられなくなる程の衝撃を受ける。毒とは全く上手く名付けたものだと関心する。オピウムと同列のネーミングの巧さだ。流石に本家プアゾンの門はくぐれず、同類の文字どおりの優しい、社会性を身につけたタンドールプアゾンを当時の私は相棒にした。優しい毒はそれなりにいい香りだったように記憶している。この頃からライトムスク好きの兆候が芽生え始める。

 

レールデュタン

ニナリッチ・レール デュタン EDT 30ml [並行輸入品]

 時の流れという美しい名前を持つこの香水はよくおばあちゃんの香りと例えられる。線香っぽい香りだ。母の勧めで購入した。パウダリーなお線香なのだが上品で穏やかな心安らぐ香りで私も大好きだ。未だに買い足して鏡台を飾っている。平和を願う鳩のボトルはルネ・ラリックのデザイン。

 

アリュール

シャネル CHANEL アリュール 50ml EDT SP 【並行輸入品】

 身につける人によって香りが変わるという購買欲をそそるコピーで売り出されたシャネルの香水。父の海外旅行のお土産だった。さて、自分が付けたらどんな香りがするのだろう、とワクワクしつつ身につけたが、残念なことに集点の定まらないぼやけた香りが四散するだけであった。当時日本で発売されているファッション誌の裏表紙を全てと言っていいほどに華々しく飾っていたアリュール。しかも宣伝は数ヶ月以上続いた。外観はちがえど未だにシャネルのカウンターに置かれるほどのロングセラーであるが、正直何が良いのかわからない謎の香水の一つ。