アシュケナージのショパン

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アシュケナージのディスクを買ったのは十代の中盤~終わり頃だった気がする。どこでどういった経緯で手にしたのかこのCDに限っては覚えていない。当時音楽は開けてみないとわからない秘密の箱のようなもので、一か八かの賭けにも似ていた。

 なぜショパンを選んだのかも記憶にない。知っている曲が多い、それだけで気軽に手にとったのだろう。ジャケットの若いアシュケナージの表情も幼心に響いたのかもしれない。

 この選択は実に幸運だった。初めてのショパンの楽曲がアシュケナージだということは、天の恵みといってもいい。これがアルゲリッチホロビッツだったら、それほどピアノ曲には惹かれていなかったかもしれない。

アシュケナージの音は「善」で満ちている。清冽で正確で美麗かつ力強い。私のピアニスト比較表の中心点はアシュケナージだ。彼の演奏は調和に満ちている。健やかで明朗で悪意の無い音、それはアシュケナージの人柄と同一だと考える。

 もし幼い誰かに聴くべきディスクを勧められたら迷いなく私は彼のショパンを勧める。以降は聴く者の趣味嗜好で揺れればいい。