ピアニスト 清水和音

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楽家になる願いを託されたような名前だな、とその字面を見つめながら思った。親が望み子がそれを叶える確率とはどれほどのものだろう。かなり少ないのだけは想像がつく。


21歳のときにロン=ティボー国際コンクールで清水和音は優勝している。私はその名を青澤氏の書籍でみつけるまで恥ずかしながら知らなかった。清水和音氏の副題は「永遠の青春」だ。なんとも魅力的な副題だが、本文では永遠の青春など存在しないとあっさり切って捨てられる。ただ、音楽の中にだけそれは存在している、と言い切る。バッハの二声のインヴェンションの演奏では透明感に胸を打たれた。聴いているだけで心身の浄化される気がした。日本人的な(この表現には賛否両論あるだろうけれども)柔らかで静謐で、水面の波紋が平面上に無限に広がってゆくような演奏だった。 だが、威勢のいい演奏もする。亡き王女のパヴァーヌは失礼ながら死んだ王女がキーの強さでパチリと眼が開くような気がしたし、ベートーヴェンはその熱量に圧倒された。ベートーヴェン好きにはたまらないかもしれない。


私はバッハを好んで聴くので結構なプレイヤーの演奏を耳にしていると思うのだが、清水和音のバッハは酷く印象に残っている。先に書いた波紋の静かに広がる音、日本庭園を眺めているような、青竹の、細い、それでいてしなる芯の通った演奏に、魅了された。繰り返し聴くに値した演奏だと位置づけている。