ピエール・フルニエ 無伴奏チェロ組曲

 

チェリストといえばカザルスだが、私はカザルスの無伴奏を聴いたことがない。バッハ好きなら聴いて当然だろうが、このピエール・フルニエの演奏で満足しているのでもう聞く必要はないと結論づけている。
このディスクは二枚組で装丁もシンプルかつ上品で気に入っている。購入した当時がおそらく10代後半だった気がする。我ながらセンスが良いじゃないかと手に取るたび悦に入るのだ。装丁もさることながら、演奏は称賛の言葉を尽くしても尽くし足りないくらい素晴らしい。先も書いたとおりカザルスの演奏を聴いていないので比べることはできないけれども、ミッシャ・マイスキーの演奏と比べると、格段に私の嗜好に合っている。

無伴奏チェロの第一番は大方の人達が耳にしたことがあるはずだ。CMにもよく使用されているし、心落ちつくクラシック等のCDにも組み込まれているのを目にする。全体の流れは6つの組曲にそれぞれ6曲が収められている、合計36曲、チェロの独奏が続く。36曲を連続で聴くのは、正直お勧めはしない。聴き終えたあとは暗いあなぐらを数年彷徨って、やっと這い出てきた人のように鬱な気持ちになるから。

この曲集のメインは6組曲目の2曲目アルマンドと4曲目のサラバンドだ。特に4曲目は、そのこまでたどり着くまでの33曲が布石といっていいほどにカタルシスに満ちている。この曲を聴くためだけに長い苦難を乗り越えてきたと思わせてくれる。今もこれを書きながら聴いているのだけれども、やはり、筆舌に尽くしがたいほどに美しい曲のひとつだと思う。残りのガボットジーグは祝祭の曲だ。ここまでやっとたどり着いたね、おめでとう、の意味での祝の曲である。

ピエール・フルニエはフランス人なので、尖った曲調に幾分丸みを付けて無意識に演奏しているのではないかと感じてる。生粋のドイツ人などが弾いたら、ボウイングではらわたを一突きされそうで、バッハの無伴奏は聴けそうにない。