”
出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/"
スヴャトスラフ・リヒテルの名はクラシック好きの方ならみな知っている。ラフマニノフもロシアを代表する作曲家である。この二人の、作曲家と曲と演奏家のコンビネーションというかセッションというか共鳴というか、その黄金の調和と言っていいディスクがこれだと私は以前から確信していた。確信し、日に日にその思いが強くなった。
初めて聞くピアニストの演奏では大抵ラフマニノフの2番かチャイコフスキーの1番を聴くようにしている。大方デビューしたての演奏家はこの二曲のうちどちらかはオーケストラと共演しているからだ。よってひとまず聴く。指揮者やオケとの相性もあるが、いまだかつてこのリヒテルの演奏を超えるラフマニノフの2番を私は聴いたことがない。カラヤンとワイセンベルクのコンビだってこれを超えることはなかった。指揮者はスタニスワフ・ヴィスウォツキ、オーケストラはワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団。
そう簡単にリヒテルを超える新人のピアニストが現れては困る。しかしそれにしてもこのディスクの調和性というか完璧さは、他の曲でも類を見ないのではないのだろうか。第1楽章から3楽章までの合計約三十分ほどの楽曲を通して聴いた。三位一体の調和を作り出しているものが何かを見極めるために。
私的な結論から書くと、三者の類稀な無個性から生じたのではないかと感じる。ピアニストのリヒテルはバッハを聴く限り自己主張の少ないピアニストだと思う。極端なスタイルを持たず淡々と楽譜に忠実に演奏する。ただ、聴いていて、これはリヒテルだとすぐにわかるほどの音のまろやかさや澄み具合を持ち合わせている。神からの特別な贈り物だ。指揮者とオーケストラは正直詳しくないのでなんともいい難いのだが、大げさすぎず、出しゃばらず、全身全霊で場の空気を読み尽くし、音をひきだしそれに応える。この三つの線が反発することなく絡み合い一直線にピアノ協奏曲第2番という時の芸術を再創造している。
この演奏の素晴らしさを知ってもらうには、なにより聴いてもらうのが一番だろう。今の時代、無料で音楽をきける恩恵を余すところなく感受したい。