ジュリアス・カッチェン

どういう経緯でたどりついたのか、ジュリアス・カッチェンという名のピアニストの弾く音に惹かれてネット上を探し回ってみたのだけれど、ブラームスベートーヴェンラフマニノフショパンが少し記録に残っているぐらいで残念な事にバッハは一曲も見当たらなかった。

Wikiではアメリカ人と紹介されている。ただ、祖父母がユダヤ人でロシアの音楽院で教鞭を取っていたというのだからピアニストになるには最適の血筋と環境の持ち主なのだろう。残念ながら42歳で早逝してしまった。そのせいか演奏種目が少ない。

ブラームスのピアノ協奏曲第一番の第三楽章が圧巻だった。オーケストラの管楽器の響きが派手で、録音もクリアではないのだけれども、ライブ演奏の持つ勢いと、ジュリアス・カッチェンのタッチの力強さが聴いていて心地良かった。線の太さというか厚みが程よくブラームスの曲調と合っていた。

ブラームスベートーヴェンの重厚さに甘味を加えたイメージを持っている。実を言うと、ブラームスは聴いている最中、その重みに押しつぶされそうな心持ちになるのだ。けれどもジュリアス・カッチェンの演奏は、墓石のような重さをまるでパイ生地を回すように軽々と片手で回転してみせる鮮やかな技量があって、聴き惚れてしまう。繰り返し何度でも、彼の演奏する第三楽章のスペクタクルな曲調を耳にしたくなるのだ。