ルイ・ヴィトンで香水を買った

 ルイヴィトンで香水が販売されているのを知ったのはかなり前、You Tubeインフルエンサーが知人に一箱ずつ感謝の念を込めてプレゼントしている場面を見てからだった。そのパッケージは男性的で、フォントも蓋もボトルの厚みやラインも、旅のブランドのヴィトンらしくトランクに放り投げても壊れそうにないフォルムは持ち運びに便利そうに見えた。

 その百貨店内のヴィトンへ足を踏み入れたのは初めてだった。艶めいたキャビネットの並ぶ店内は整然としていて、けれども気軽に買い物のできる気安さもあった。

 香水は店舗内の中央に堂々と並べられ、それは色鮮やかで人目を惹いた。私は早速スタッフの方を捕まえ延々と質問攻めにした。

 非常に驚いたのはそのスタッフが私のつまらない質問に逐一すべて丁寧に完璧に返答することだった。彼女の胸には研修中というプレートが付いていたが、立て板に水のように滑らかに語るのである。

 その返答はホームページにも冊子にも載っておらず全て研修で学んだという。ジャック・キャバリエが4年の猶予を得て世界中を旅した後に一気にシリーズを展開したというヴィトンを代表する香水について、彼女は滔々と語った。

 残念ながらスマホの録音機能をオンにしていなかったせいで大方忘れてしまったのだけれども、再度説明をご希望ならいつでもご来店下さいという言葉をあつかましく真に受けてまた訪問しようと企んでいる。1本が高額なので3度ぐらいは図々しく訪ねていっても引かれはしまい。

 ルイ・ヴィトンの香水のボトルキャップは磁石のため着脱が簡単である。これは移動中にも手軽につけられるためである。そして瓶の中に見えるはずの水管の部分は光の屈折を利用しよくよく目を凝らさないと見えないマジックを施してある。

 ひととおり香りを利いて感じたのはどれも名付し難い香りだということだ。7つ全てが言葉にし難いというのは可笑しな統一感であるけれども、ルイヴィトンという冠をかかげてジャック・キャバリエが凝らした技法なのかまたは高級ブランドとは得てしてこういう香水を造るものなのか庶民の私には経験不足により不明だが、例えばジャスミンの香りとして利いたものがエタノールとチョコレートの香りがするのは首をかしげてしまう。おそらくジャスミンをあからさまに彷彿とさせる香りは野暮なのだろう。それは絵画でいえば写実的な技法でジャスミンを描写するのも良いが、光と影を駆使してイメージを喚起させるほうがよりジャスミンをイメージさせやすいのと似ているのかもしれない。

 私が購入に至ったのは、いわゆるひとつの記念的な理由からである。それは破産しても買うべきアイテムなのだろう。時を経てスノードームを見入るように虚実入り交じった想い出を懐かしむためのスレグランスである。

 

ローズ・デ・ヴァン バラの風 羅針盤
エトワール・フィラント 流れ星
クール・バタン 高鳴る心
アトラップ・レーヴ ドリームキャッチャー
マティエール・ノワール 未知の世界への冒険
ルジュール・スレーヴ 夜が明ける
ウール・ダプサンス 余暇の時間
スペル オン ユー 魔法をかける
アポジェ 最盛期

使用している香料や名前を照らし合わせてみるとジャック・キャバリエの意図がみえかくれして興味深い。