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「貴方がこの文章を読む頃には、私は麦畑の向こうの別の世界に消えていることと思います。比喩的な表現ですが、今はこのような伝え方でしか記せないことをお許しください。貴方に話す時、正直に言いますと少し、いえ、かなり躊躇ってしまいます。貴方はひどく優しい表情をしていますけれど、感情を表に出さない方なので、怒っているのか、思索に耽っているのか、気持ちを知れずに不安になってしまうのです。多分、私は貴方に好かれたいのでしょうね。素直な自分を出せずにいる事はよくない事でしょうけれども、仕方がないと諦めている自分がいます。
 長い三年間でした。こんなに長く誰かを追いかけた事は生まれてから一度もありませんでした。私は昨日、鏡に向かって髪を結ってみたのですけど、上手く整えることができずに落ち込んでしまいました。ただその時ふと、髪を編みながら、小さな事柄のひとつひとつが全て貴方に向かっているのだと思ったのです。はたからみればうわの空のようでも、いつも心は貴方を追いかけていたのです。時には気持ちが沈むことありましたし、反対に踊り出したくなるような日々もありました。
 多分貴方は、文字よりも、一枚の鮮やかな絵に心を動かされるのでしょう。私が絵を描く術を持ち合わせていたなら、貴方の顔を縁取る柔らかな巻き毛や瞳に宿る知性を描き、絵に込めた慈しみを感じ取ってきっと、おそらく、貴方は少し、頬を赤らめたかもしれません。その分、文章は嗜みを持って想いを告げることができます。直接的ではありますが、前述の通り、貴方のそばに私はいないのですから恥ずかしく感じることもなく、今は心の赴くままにペンを走らせることを嬉しく思います。