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私は徐に立ち上がると窓までゆっくりと歩きながら数字を数えた。前頭葉を使って怒りを抑えるためだ。そして少しでも身体の近くに父を感じたかった。平和で穏やかな眼差しと、私の名を呼ぶときの静かで落ち着いた声を思い出すために。
「H・E・S   ヘンリー・エドワード・ソロモン。」3番街の亭主に刻印して貰ったと袖口のボタンを見せて私に言った。「あそこの主人の彫は癖が強いんだ。けれども私はそれが返って気に入ってる。人に名前を知られるのは好まない。詮索されるのはそれ以上に不快なのだが。」
 南洋に浮かぶオリーブ畑の広がる島について習った時の彼のファミリーネーム、ソロモン家について学んだことを私は思い出していた。プラント育成で原住民への貢献と共に名誉と財を成した新興の、と言っても第一次世界大戦を終えた時代に名を国中に知らしめた一族だ。熱帯雨林の異国の地に世界の果てまで続いているような屋敷が教科書に載っていた。