小説(仮)嵯峨山恭爾 003

「考えてはいけない時に思ってしまう時ってあるでしょう。例えば仕事中とか。そのせいでよくミスをするの。どうせ相手は私の想像するほどに思ってくれてはいないのに。自分を卑下しているようだけど、そう思ってしまうの。私できれば彼について考えたくないの。だって、ほら彼女がいるし。一度ふられてるし、仕事できないし、私。」
 
 キューベイだしってこのネタ通じるのか、そっちでも。と聞きたかったがやめた。そうだな、確かこいつ一度盛大に振られているんだったな。とりあえず気持ちだけでも伝えておけよと言った俺の助言をどう捉えたのか他人事ながら頭をかきむしりたくなるような事をやらかしたのだ。こいつだけが一本ネジの外れた馬鹿なのかはるか彼方の宇宙にすまう仲間共もそうなのかそれも聞きたかったがこれまた面倒なのでやめた。知ってどうなるものでもないし、話がこじれそうだ。
 
「まあ、深く思いつめない方がいいんじゃないか。想像と現実っておおかた違うだろ。時間がたてばそのうちなんとかなるんじゃねえの。」
 
 言ってる自分が聞いてさえウンザリするほど無責任な台詞を吐いて彼女を見た。俺の言ってることを聞いているのか、いないのか、聞いていても無視してるのかそもそも聞く気がないのか、彼女はベッドに横たわったまま空を見詰めていた。何もない空間のその先のおそらくその妙な想い人について考えているのだろう。ということは俺のアドヴァイスも上手い具合に空間に消えたのだ。無限の彼方の何処かの世界へ。
 
「まあ、いいかな。」
 
 いいのか?!おい。おまえの大事な想い人をそれで片付けていいのか?!おそらくセリフに(今は)と付く休符的な意味なんだろうが。その辺の感情の振れ具合に男の俺はついて行けない。それが女という生き物なのだろう。特別こいつが変なわけじゃない。多分。怪訝な表情で見遣る俺を金のまなこで見つめ返した彼女は、おもむろに起きあがると現実世界の俺の人生の進捗状況を訊ねた。
 
 ここからが本題である。俺の人生の本題である。女の好きだはっただのとは訳が違う。生活に直結している。懐具合に影響する。
 
「仕事の依頼あった?」
「……無い」
「プロフの文章変えた?」
「変えた。三種三様それぞれ変えた。心許ないんでプロのライターに頼んだ。」
「写真は?」
「変えた変えた。服から新調した。爽やか系普段着から正装からバストアップと全身にそれぞれカラーとモノクロ。笑顔ん時ははちゃんとウイスキーって言ったぞ。」
「メールは?」
「書いてない」
「作ってない」
「インスタグラムは?」
「やってない」
「……ホームページは?」
「開いてない」
 
 今度はおれが真っ白な空を眺める番だ。視線の先には白い壁。その向こうには何があるというのか。