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それについて文句をいう権利は私には無い。出来の良く無い子供が何かしら迷惑をかけて生活しているのだから呼ばれれば飛んでいくのが筋だろう。父のお気に入りの服を着て、髪を整え、帽子を被り、数日分の衣装と本を携えて父の元へ向かうのが、義務というものである。
 トランクを開けて服を取り出しクローゼットにかける。かつては叔母の居室だったここはたまに清掃の入っているせいか換気をして白い布の覆いを外せばすぐにでも住み心地の良い部屋になった。せっかく帰ってきたというのに父のお気に入りがすでにあの広くて清潔なそしてやたら美術品だらけの部屋にいるとなれば私はお役御免なのであった。それも仕方ない。紫陽花の花をちぎって部屋に飾ろうか。けれども私は花を生けるということができない人間だった。