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その日の夕暮れの時刻、いつしか窓も開け放したまま、夢も見ずに深い眠りに落ちていた私は、コトリという小さな軋みのような音で目が覚めた。風は凪いて白いカーテンも黄昏に染まり、わずかにゆらめいている。その静けさの中で、コトリという音で目が覚め、ギイという床の軋みで一気に身体を起こす。ドアの鍵を閉めなかったのは不用心だった。だが個人の自宅の敷地内に誰が入ってくるというのだろう。時計は夜の7時を指していた。雇人は誰もいないはずだ。新たな約束事でも無い限り。父は他人が夜に家にいるのを好まなかった。特別な用なども有る気配なんてなかった。静かに身を起こすと見咎められぬようソファの脇に身を隠す。誰かがこの部屋にいる。軋む音は床を歩く一定の足音に違いなかった。窓の向こうに見える父の部屋のベランダは灯りが点っている。今朝方目にした青白い肌の女性と夕食を共にしているに違いない。じゃあ誰がこの部屋にいる?私は唇を噛み締めると意を決してサイドテーブルの明かりをつけて立てかけられたゴルフのクラブを握った。こんなところになぜゴルフのクラブがあるのか気にも留めずに。