(改題) 001

 私がこの家の鍵を受け取ったのは今年の正月の夕食時だった。その鍵は特徴のないステンレス製のどこにでもある鍵だった。それを手のひらにのせて、自由に使っていいよといったのは、母方の叔父だった。叔父といってもそれほど歳は離れてはいない。17歳の当時高校生だった私とは十ほど離れている、整った姿の魅力的な叔父は最近大学の研究員になったばかりだった。
 これを使いなさい、と私に渡した鍵は、古い診療所の鍵だった。私の祖父、彼の父のかつて使っていた小さな病院の鍵。学校へ行く途中に毎朝通り過ぎるその病院の鍵を彼は渡してくれた。時間を潰すにはちょうど良い場所だから、と。親戚の集まる会合で、隣同士になった私たちは、手持ちぶたさも手伝って、日常の些細な出来事を伝え始め、その時の会話で、受験科目以外の授業が退屈だとか、そんな話をすると、彼は、キーホルダーから鍵をはずして、私の手のひらにそれをのせた。