(改題) 007

 見つけたらすぐに帰ると私に向かって言った男の眼は眼鏡の奥で灰色に閃った。叔父の友人なら二十七、八というところだろうか。
「書架はどこにある。」
知らないと答える間もなく彼は足早に廊下を進んでいく。
「私も、今日来たばかりで、何も知らないんです。」
その後を追いつつ暗い廊下の電気をつける。
「お前は誰なんだ。」
「聖さんの姪です。母方の。」
「にしては少しも似たところがないな。」
と呟いて立ち止まると一瞬間をおいて振り返り私に向き合って、右の手のひらをさっと上下に数回動かした。窓を拭く動作を素早くした様な妙な動きだ。
「お前は敵が多い。真っ当な事を言ってくる奴には近づくな。偽物だ。忠告は欺瞞だ。真逆の事をやれ。笑顔を信じるな。嘘八百の仮面だ。特に女には用心しろ。お前は聖と違って能天気の馬鹿だ。直ぐに人を信じる癖がある。人を見抜く時は目を見て直感を信じろ。経験を積め。1日24時間だって事を忘れるな。あと継続しろ。」