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「でも、ナディーヌは、美人だと私は思うわ。」
私の見た限り彼女は美しい人の部類に入るし、なおかつ目の前の男の髪色や瞳の色と同等の輝きを持っているのだから、親族の可能性はなきにしもあらずだと半分やけになって口走ったけれども、セリフの後半部分ですでに私は後悔を感じていた。
「ナディーヌ・ラトランド嬢の形状は美しさを表現しているかもしれない。首筋から細い肩を覆った絹の朝焼けのような色合いは印象的だった。去年の誰のパーティーか思い出せもしない一席で。記憶に残ったのはそれだけ。あのブルーの瞳もシャンパングラスを掲げてみればどこにでもある茶色なのを君は知っている?彼女は酔っていてさえ、面白いことをひとつも言えはしないつまらない女だ。そしてその日の食事は非常に美味かった。」
「私は、べつに、美しければそれで十分だとおもうけれど。」
しどろもどろに、そして彼の辛辣なナディーヌへの評価に多少腹をたてつつ言い返した。
「さすがに君はあれだ。ハロルド・ダービーの娘なのだな。女は美しければ良い。美術品と同じだ。」