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男性と聞いてタキは訝しがった。ヘンリー・エドワード・ソロモンの滞在している事をタキはまだ知らないのだ。
「なぜ彼がここにいるのか私にはわからない。タイミングが悪かったわ。しばらくタキの部屋で過ごしたい。ここで着替えて昼間は庭を散策したい。小鳥の巣箱や笹舟の流れる様子を見て榎木の下で本を読んで好き勝手に散策して夕暮れ時に感傷に浸って夜に鈴虫の鳴く音を聴きながら流れ星を数えたいの。子供の頃そうしたように。」
 おやまあと笑いながらタキは私の眠るためのベットを整えてくれた。そして明日になったら私の部屋を整えてそこで過ごすべきだと言った。適当に相槌を打ちつつ服を着替え疲れた身体を横たえる。目を閉じるとヘンリー・エドワード・ソロモンの金の巻き毛が脳裏に浮かんだ。黄金色の髪、その隙間から覗く青い双眸。整った面に洗練された動作。厭世家ぶった失礼な言葉。可能な限り西側の離れには近づかないように、この夏の間もう2度と彼に遭わずに済むように、上手く立ち回らねばならない。なぜなら、と私は声に出して言った。
「なぜなら」
彼のような人間が私を好むはずがないからだ。今年は最悪の夏になる予感がした。