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絶対0度の男に相応しくエドワード・ソロモンの名を聞いても彼は微動だにしなかった。一昨年の株価の暴落時にも静かに落ちついて数字の変化を眺めていたのだろう。あのショックで自ら命をたった有名人を私は新聞で見幾人もみつけた。
「私の知るかぎりにおいてヘンリー・エドワード・ソロモンのいくつかの興味深い出来事のひとつに、君の叔母と彼が長いこと恋人同士だったという事実がある。」
 柔らかな寝床に入り込んでいた私は動物のように飛び起きた。
「恋人同士?彼と私の叔母が?待って。彼は今いくつなの?」
「私と同期。パブリックスクールを共に卒業した。総代として壇上で謝辞を奏した姿が記憶に残っているね。内容は覚えていない。」
「シャオ・ホウ、貴方、確か今年で三十になったのよね。」
「誕生記念のパーティーの招待状を君は受け取らなかった。」
「ごめんなさい。でもアンジェラが来るのを知っていたら招待を受けたと思うわ。彼女に会えるのは数年ぶりだったろうから。」
「アンジェラも君に逢えずに残念がっていたよ。」