(改題) 005

英語のイディオムの発音にうんざりし始めた頃、勝手口の鍵が大きく音をたてた。参考書を閉じ立ち上がる。叔父か、彼の父か母、もしくは叔母か、家族の誰かがこの家のドアを開けようとしている。叔父はしばらく誰も使っていないからと言ったのに。誰だ。
 不登校、不法侵入、無銭飲食、この場合無銭飲食は不法侵入の括弧にくくられるのか?罪の告白と謝罪と言い訳を咄嗟に考え並べたてると同時に暴漢であった場合の奴の懐を刺せるような武器を探す。果物ナイフで結構。それを握りしめてドアの開くのを待つ。硬直して、けれども隙間をぬって逃げる際にその脇腹に深く傷をつけられるような力を肘に蓄えて、扉の開くのを私は待った。
 ノブの回った後、ドアは開いた。冬の太陽の光が差し込んだせいで顔が見えなかった。逆光が彼の顔を黒く染めた。けれどもそれは一瞬で、一歩彼が家に足を踏み入れた時にはもう光は遮られた。
「代理で来た。」
家に入るなり彼は私に言った。
「探し物をとりに来た。しばらく邪魔をする。」
 まるで私がここにいるのを知っていたかのように躊躇いなく言い放った。何を?と問う間も与えず彼は奥の部屋を目指して歩いていった。